はじめに

女性国際戦犯法廷20周年を迎えて
「女性国際戦犯法廷アーカイブズ」を公開します

「日本軍性奴隷制の責任者を裁く女性国際戦犯法廷」が2000年12月に東京で開かれてから、はや20年が経とうとしています。戦争のない21世紀に向けて、20世紀の最後に女性たちのイニシアティブでひらかれた民衆法廷は、戦時性暴力の不処罰の連鎖を断ち切るためのグローバル市民社会の取り組みでした。

1998年のアジア連帯会議で「女性国際戦犯法廷」を提案した故・松井やよりさんは、加害国の日本の女性として責任を果たしたいと、実現に向けて奔走しました。2000年の東京での「女性国際戦犯法廷」開催、2001年のハーグでの最終判決、そして1000パラグラフを超える判決の日本語訳の完成を見届けた後、松井さんは病にたおれ、2002年12月に帰らぬ人となりました。「女たちの戦争と平和資料館」建設は、「女性国際戦犯法廷」の思想を引き継ぎ、戦時性暴力を根絶して暴力のない平和な世界をつくるための拠点をつくってほしいという松井やよりさんの遺言でした。たくさんの方々の支援で2005年に設立されたwamは、これまで15年間、ジェンダー正義の視点から日本軍性奴隷制の被害と加害を伝える活動を続けてきました。

「女性国際戦犯法廷」の憲章前文は、「全記録を、20世紀の歴史の消し去ることのできない記録として世界に公表することにより、『法廷』の努力が、戦争と女性への暴力のない21世紀と新しい千年紀を創ることに寄与する」と、高らかに謳っています。

歴史修正主義勢力がますます強まる日本社会で、国家が消し去ろうとする記録を民衆の手で守り、伝えていくために、wamは2015年から日本軍「慰安婦」アーカイブズに取り組んできました。2016年にはユネスコ記憶遺産への日本軍「慰安婦」資料の登録も申請しましたが、日本政府は妨害し続けています。そこで、2020年、「女性国際戦犯法廷アーカイブズ」を日本語と英語で公開し、消し去ることのできない記録として全記録を世界に公表する、その作業をwamが行うことにしました。日本軍性奴隷制について英語で書かれたものでは最も包括的である「女性国際戦犯法廷」の最終判決とともに、法廷に提出された文書や法廷審理の映像を順次公開し、関連書籍・論文等も追加していきます。

2020年、日本軍性奴隷制の責任者を裁いた「女性国際戦犯法廷」を改めてみつめなおす機会になれば幸いです。

2020年5月10日
アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)

アーカイブズの目的と構成

法廷は、英語、朝鮮語、中国語(中国各地の言語も含む)、台湾および台湾原住民の言語、タガログ語(フィリピン)、インドネシア語、テトゥン語(東ティモール)、日本語と、様々な言語で実施され、二重通訳もあった多言語の法廷でした。一方で、判事団に提出された文書や判決は英語が基本言語となっています。多言語による法廷のアーカイブズ化は極めて難しい判断を伴います。wamの「女性国際戦犯法廷アーカイブズ」は、暫定的に、以下のような目的に沿って構成することにしました。

第1に、審理の概要を正確に記録することです。このたび、ウェブサイト制作を機に、壇上にあがって証言した被害女性や検事団のメンバーを文書記録と映像記録を照合して再確認しました。参加者リストや発言概要とともに各審理のダイジェスト映像も付して、正確な流れがつかめるようになっています。

第2に、法廷に提出された文書をアーカイブズとして掲載することです。起訴状と証拠文書等、法廷に提出された文書は、「全プログラム」のページに審理順に掲載されています。

第3に、判決原文(英語)をテキストファイル(PDF)で掲載し、活用しやすくすることです。法廷を研究テーマにした学生からこれまで何度も要請を受けてきました。

このウェブ・アーカイブズはこれからも発展していく予定です。wamで所蔵・整理中の資料だけでなく、「女性国際戦犯法廷」の評価等に関する資料も収集して、充実したアーカイブズにしていきたいと考えています。ぜひ、情報をお寄せください。


【お詫び】
2005年の開館以降、wamライブラリーで閲覧に供してきた「女性国際戦犯法廷」の記録については、松井やよりさんが提案した上記の経緯から、原本資料だと信じられていました。しかし、2016年に資料を閲覧した来館者から疑問が出されたため、関係団体に確認したところ、wamにあるのは複写で、原本は韓国で保管されていることが判明しました。間違った情報をお伝えしてきたことをお詫び申し上げます。